1996年8月5日
2発5打点 初の満塁ホームランも
シワはシワでも、笑顔のシワが王監督の顔にクッキリ刻まれていた。「久しぶりに僕が来る前のダイエーの野球が出たね」。開口一番飛び出したコメントが、王監督のご機嫌ぶりを裏付けていた。3―3の同点で迎えた5回、王ダイエー誕生以来、初の1イニング8得点を奪い、3位ロッテに連勝した。
イケイケ野球の復活は小久保のバットがもたらした。無死満塁で迎えた5回の第3打席。2回に先制アーチを放った小久保のパワーは、まだあり余っていた。「最近、凡打は外野フライがほとんどだった。だから、最悪でも犠飛になるな、と気楽に打席に入りました」。小久保独特の表現を使うなら、津野のフォークをとらえた打球は、プロ初の14号グランドスラム弾となった。
この日まで、打率2割3分5厘。ヤクルト野村監督の著書を読むなど、不振脱出の手掛かりをつかもうともしたが、よけい混乱してしまった。そんな時、ベテラン石毛から、「元に戻るしかないんだぞ」とかけられたひと言。楽しんで野球をする。邪心が消えた小久保も復活を告げた。
1996年10月24日
青学大・井口の入団濃厚 3塁特守
ダイエーが、早くも「井口シフト」を導入、今ドラフトで入団確実の青学大・井口忠仁内野手(4年)の受け入れ態勢を固めている。秋季練習第2クールに入った23日、王監督は小久保裕紀内野手(25)に秋季練習で初めて、三塁の特守を指示した。来季は井口に遊撃の定位置を与えるため、二塁の小久保を三塁に、遊撃の浜名を二塁にコンバートする王構想ができている。
小久保は、この日届いたばかりの三塁手用グラブをはめていた。三塁の定位置に就き、定岡守備走塁コーチのノックを約20分間、追い続けた。「監督からは、(コンバートは)正式に言われていません」。小久保は言葉を濁した。だが、青学大の後輩、自分を師と慕う井口を迎えるため、大学時代のポジション再マスターに、積極的に取り組んでいる。
小久保の特守の横では、吉永がファーストミットを手に、個人ノックに汗を流した。これも井口入団に伴うコンバート。井口が入団すれば、一塁吉永、二塁浜名、三塁小久保、遊撃井口、捕手城島の内野陣が誕生する。王監督は「だれが来るかは分からないが、井口が来るとしても、一人の野手が二つのポジションを守れるようにしなければならない。そうすればバリエーションに富んだオーダーで戦える」と話す。例えば、城島がリード面でスランプに陥ったとき、吉永がマスクをかぶり、ベテラン勢が一塁に入ることで、攻撃力を落とさずにすむ。井口の入団で厚い内野布陣ができあがる。
特守を終えた小久保は「このまま三塁を守ると、20から30くらいエラー(今季は4失策)するかも」と、本音ともジョークともつかない感想をポツリ。だが、定岡コーチは「グラブを出すのがまだ早いが、これはすぐに直る。三塁の守りに違和感がないみたいだし、三塁の方が動きがいい」とサード小久保に太鼓判を押した。
1996年12月13日
井口シフト拒否!3塁コンバートで
契約更改交渉で現状維持の年俸5000万円(推定)で一発サインをしたダイエー小久保裕紀内野手(25)が12日、球団に対し「来季も二塁を守りたい」と直訴。後輩の井口忠仁内野手(青学大4年)入団で想定される小久保三塁、井口遊撃の「井口シフト」拒否の姿勢を示した。
来季の王構想は、井口の加入により、一塁吉永、二塁浜名、三塁小久保、そして遊撃井口。事実、11月に高知で行われた秋季キャンプでは「井口シフト」を想定。今季二塁の小久保は守備練習では三塁を指示され、同じく遊撃手だった浜名は、二塁に固定されていた。
だが、いかにビッグルーキーの加入とはいえ、簡単に“配置転換”をのむわけにはいかない。「僕がセカンドをクビと言われてサードをやるならともかく(三塁には)松永さんもいるわけだし、チームとしても僕はセカンドの方がいいと思う」。もちろん、一プレーヤーとしてのこだわりもある。「ようやくセカンドの面白さが分かってきた」。広い福岡ドームでのカットプレーでは肩の強さをアピールする見せ場もある。「井口シフト」拒否には、「定位置は自分の力で勝ちとれ」という、後輩へのゲキも込めている。